美術館・博物館のケース内照明(1) 壁付けケース用ウォールウォッシャ

美術館・博物館のケース内照明(1) 壁付けケース用ウォールウォッシャ

何回かに渡って美術館・博物館向けの照明器具の構造と特徴を種類ごとにご紹介しています。これまでの記事は以下をご参照ください。

美術館・博物館の展示用照明の種類
美術館・博物館の空間照明(1) スポットライト・カッターピンスポットライト
美術館・博物館の空間照明(2) ウォールウォッシャー

今回は、壁付けケース用のウォールウォッシャーについてです。

基本的には前回ご紹介した空間照明用のウォールウォッシャーと同様の配光がベースとなります。そのうえで、壁面だけでなく床面に対しても均斉度の高い光を届ける必要があります。

一般的に壁面ケースのような大型展示ケースの場合には、上部だけでなく下部にも配置します。下部照明には大きく2つの役割があります。一つは上部照明だけではどうしても低くなってしまう壁面下部の照明を補助すること、もう一つは上部寄りの照明光による壁面の展示物に発生する影を薄くすることです。この下部照明は、展示ケースの構成上、必然的に小型化が求められます。
上部照明器具は展示ケース内に設けられた設置場所に据え付けられます、このため展示室内に設置されるウォールウォッシャーに比べ、構造や大きさの自由度は高いです。

LEDを光源とする壁付けケース用ウォールウォッシャーの構造は、大きく2つの方式があります。

一つは以下のような、ライン状に並べたLEDからの光をいったん反射鏡にすべて当て、配光を作るタイプの器具です。

ケース照明用ウォールウォッシャー

多くの例では1つのケースに対して1ラインもしくは2ラインで構成されます。

長所
• 大面積からの平行光を得やすい
• 反射鏡を大きくしやすく、器具効率を上げやすい
• LED裏側での空間が得やすく、熱設計に対する自由度が高い(高出力LEDが採用しやすい)

短所
• 細かい配光制御が難しい
• 設置後の運用の中で配光のバランスを変更することが困難

もう一つはライン状に並べたLEDからの光を、一つの展示面に対して複数ラインで照明を行います。このとき、反射鏡やレンズを用いて配光の異なるユニットを用意します。

ケース照明用複数ラインウォールウォッシャー

長所
• 複数ラインで構成した場合、調光操作によって配光バランスを変えるシステムの構築が容易
• 照明器具の小型化がしやすい
• 複数ラインでの運用を前提とするため、小出力のLEDの採用が可能

短所
• 複数ラインのため、マルチシャドウに気を付ける必要がある
• 設置時の調整が複雑になりがち

汎用性を高めるために、LEDを低色温度(3000K程度)のものと高色温度(5000K程度)のものを交互に並べ、それぞれの出力を調整することで、任意の色温度の光を得られるシステムを構築することができます。
また、通常の展示ケースでは、展示空間内の温度変化を押さえるために、照明器具と展示空間の間に熱切りガラスがあります。このガラス面からの光の戻りが、再度照明器具の反射面に当たり、意図しない光が発生することがあります。展示ケースの設計側との綿密な情報交換並びに、実寸大モックアップ実験などが重要な設計プロセスとなります。

 

空間照明のウォールウォッシャーついては以上です。

次回のテーマはケース内照明(2) 独立ケース用ベースライト・上部スポットライト・下部スポットライトについてです。

[参考文献]
関英雄監修.LED照明のアプリケーションと技術-光学設計・評価・光学部品-.シーエムシー出版,2012,255p

関連記事

照明カテゴリの最新記事